シロフクロウ
シロフクロウは北極周辺の「ツンド ラ地帯」と呼ばれる、コケや地衣類などの植物が生える、開けた あまり木の生えていない地域に棲んでいます。またあまり高い山 の上には棲んでおらず、普通は標高300mまでの比較的低いところに多く見られます。彼らは毎年季 節に従って移動する渡り鳥で、春 から夏にかけての繁殖期には北極圏にまで北上しますが、その後は北アメリカやヨーロッパ、ロシアなどの北の地域にまで南下して 冬を過ごします。日本でもときおり北海道などで、姿を現すことがあります。
彼らはフクロウの中ではかなり 大きくなる種で、その中でもメスのほうがオスより大きな体をしていま す。体長はメスで66cm、オスで59cmになり、体重 はメスで1.7kg、オスは1
.6kgぐらいあります。中には特に大きなもので2.0kgに達するものも記録されています。また翼を広げ た長さは 137〜164cmになります。オスのシロフクロウは本当に真っ白な羽毛を持っていますが、メスの方は全身に黒や灰色をした縞模様や斑点があります(右の写真では左下のものがオスで、右 上にいるのがメス)。従って体の大きさも模様もオスとメスの間で異なるため、フクロウの中では珍しく外見から容易に雌 雄の区別をつけることができます。こ の模様は若い個体ほど多く、歳をとるとともに薄くなり、全身が白っぽくなっていきます。彼らは足まで羽毛に覆われており、これに よって北極圏の厳しい寒さの中でも体温を下げることなく生きていくことができます。また彼らはその大きな目の縁の部分が鮮やかな黄色をしており、これも特 徴の一つです。
シロフクロウの存在はかなり昔から知られていましたが、正式に報告されたのは1758年のことで自然学者のカロルス・リンネという人によ るものです。もと もと彼らが最初に見つかったのはヨーロッパの北にあるスカンジナビア半島というところで、学名の「Scandiacas」というのはこれに由来していま す。もともと彼らはシロフクロウ属(Nyctea属)という単独のグループに属すると考えられていましたが、近年DNAを使った遺伝子研究によりワシミミ ズクの仲間に非常に近縁であることが明らかにされ、現在はワ シミミズク属(Bubo属)に分類されています。
どのように日光は植物に影響を与えない フクロウというとその大きな眼を使って、夜の闇の中を自由に飛びまわっているイメージがありますが、シロフクロウはフクロウの中では珍しく主 に昼間活動し ます。これは彼らが棲んでいる北極圏では、夏の間一日中日が沈まない(白夜)ため、夜でなく昼間に狩りなどを行うように進化したためである と考えられています。普段寒い所に棲んでいるせいか彼らは逆に暑さには苦手で、日が昇って気温が上がってくると、口を開けてハアハア息をしたり、羽を広げ て温度を調節し たりします。彼らは肉食で、主にレミングという北極圏に棲むネズミの仲間やその他のネズミ、ウサギなど のげっ歯類を獲物としています。その他にも獲物となるものがいれ ば、モグラなどの小型のホ乳類やライチョウやアヒル、海鳥などの鳥類、魚なども食べます。
彼らはあまり木の枝にとまることはなく、普段は見晴らしの良い小高い丘の上で獲物が通り かかるのを待ち、獲物を見つけると静かに羽ばたいて近づき、その鋭い爪を相手の体に食い込ませて捕ま えます。そして獲物が逃げようとすると後ろ向きに羽ば たいて引き戻し、相手が疲れたすきにくちばしを使って首の骨を折ってとどめを刺します。ネズミなど小型の獲物は丸のみして食べてしまいますが、ウサギやラ イチョウのように比較的大きな餌は爪とくちばしを使って引き裂いてから呑みこみます。狩りが行われるのは主に明け方と夕方ですが、時には昼間にも行われる ことがあります。彼らは首を丸一周の4分の3にあたる、270度も回転させることができ、これによってより効率的に獲物を探すことができます。
また彼らの主食であるレミングをつかまえる時には、レミングの掘ったトンネルの上で跳び回る ことで音を出し、驚いたレミングがトンネルから顔を出したとこ ろを捕らえるそうです。その他にも猟師が仕掛けたわなの位置を覚え、定期的に罠につかまった獲物をかっさらうこともあり、さすが「森の賢者」の異名を 持つ フクロウらしく、大変頭の良い一面ものぞかせます。
ところで獲物を彼らは、その毛皮や骨も一度に呑みこんでしまいます。しかしこれらの部分は胃で消化することができないため、ペレット状の塊として吐きださ れます。このため、彼らが普段居る場所の近くには吐き戻したペレットが数多く並ぶそうです。
食べ物を手に入れる方法植える?シロフクロウは普段あまり鳴き声をだすことのないフクロウですが、なわばりに他のフクロウが入ってきたときなどは、「ホー、ホー」という声を出します。オ スは求愛の時にも同じような声を出し、メスはオスよりも、もう少しピッチが速く高い声で鳴きます。その他に「リック、リック」や「クレ、クレ」という鳴き 声を出したり、ネコのような「ミャー、ミャー」と鳴いたりもします。また恐怖を感じたり、ストレスがたまるとくちばしを打ち鳴らすような音を出しますが、 実際にはくちばしではなく、舌を鳴らしているのではないかと考えられています。(フクロウも舌打ちするんですかねぇ…?)レミングが握る子育ての鍵 |
繁殖地ではペアのうちオスのフクロウが1.5〜6.5平方キロメートルぐらいの 大きさのなわばりを築き、さらにメスがそのなわばりの中の適 当な場所に巣を 作ります。シロフ クロウは普通風によって雪などが吹き払われる小高い丘の上などに、地面にくぼみを作っただけの簡単な巣を作りますが、まれにワシなどの使われなくなった巣 を代用することもあります。彼らは周りより高い場所に巣を作ることで、外敵が近づいてきてもすぐに発見することができます。
のホウ砂作られているもの 巣ができるとメスは1日置きに1つずつ卵を産み、一回の繁殖で合計3〜11個ぐらい産み落とします。この卵の数は得られる獲物、特にレミングの数 に大きく 依存し、レミングがたくさんいる年には、最大で16個もの卵を産むこと もあります。一つ目の卵が産まれるとメスはすぐにそれを温め始め、約32〜34日程 度でひながかえります。その後、あとから産まれた卵も、生まれた時と同様に1日置きにふ化していくため、同じ巣の中にいるひなでもふ化の時期に最大で20 日以上の時間差があり、身体の大きさなど成長の段階にも大きな開きが生じます。産まれたばかりのシロフクロウのひなは茶色い色をしていますが、その上から 白いふわふわとした羽毛で覆われてい ます。シロフクロウは両親が協力して子育てを行い、メスが卵を温めている間はオスが巣を守ります(メスの羽毛に模様が多いのは、巣で卵を温めている時に周りの景 色に溶け込んで外敵から見つかりにくくするためであると言われています)。この時期のシロフクロウは非常に攻撃的であり、近づくものはた とえ人間でも、急 降下して攻撃をしかけ、時には1kmも追いかけてくるこ とがあります。また巣に外敵が近寄ると、親鳥が大げさな動きをしながら敵を近付け、巣から遠ざける 「おとり戦法」も使います。その一方でシロフ クロウがキツネなどの天敵を追い払ってくれるため、ハクガンなどがシロフクロウの巣のすぐ近くに自分たちの巣を作ることがあるそうです。
その後、卵がかえるとオスはひなのための餌を巣に運び、メスがそ れを食べやすいように小さく引き裂いてひなに与えます。ふ化して2〜3週間後まだ飛べるようになる前に、ひな達は巣を離れ始めます。その後も5〜7週間後ひなが自分の力で餌を獲れるようになって巣立ちを迎えるま で、親フクロウは餌を与えて世話をし続けます。
シロフクロウの子育てには非常に多くの食料が必要で、親鳥は一シーズンに1500匹ものレミングを狩ります。このため子供が無事 育つかどうかは、レミング の獲れる量に左右され、獲物が 多い時にはほぼ100%のひなが巣立つことができますが、少 ない時には多くのひなが餓死してしまいます。
シロフクロウが何歳ぐらいで大人になり、繁殖を行えるようになるのかは分かっていませんが、おそらく2歳ごろなのではないかといわ れています。シロフクロ ウは餌が十分にあれば毎年、一年に一度だけ繁殖を行います。しかし、卵を産んですぐの頃に何らかの理由で巣や卵が失われると、2回目の繁殖を行うことがあ るそうです。また基本的に彼ら は同じ年には一匹の相手としか交尾を行いませんが、獲物となるレミングが多い時にはオスのシロフクロウは複数のメスとつがい になることがあります。
また彼らのなわばりは餌が 多い時には他の つがいの縄張りと重なり合い、狭い地域に何組ものカップルが巣作りを行うこともあります。逆に獲物が少ない年には繁殖を行わないこともあります。野生のシロフ クロウは平均10年ぐらい生きると言われてい ますが、飼育下のものでは28歳ま で生きた記録があるそうです。
現在全世界で約29万羽の シロフクロウが生息していると見積もられており、その生息数も安定していることから絶滅の 危険性はほとんどないと考えられていま す。
自然界において彼らの天敵となる動物はそれほど多くなく、ホッキョクギツネやオオカミが日常的にシロフクロウを食べる他は、まれにイ ヌや大型のワシ類な どに捕食される程度であると言われています。またその他にトウゾクカモメのような海鳥が シロフクロウの卵やひなを盗むこともあります。その他我々人間に よってもその肉を目的としたり、ゲーム的なハンティングによって狩られることもありますが、それほど大きな影響はないと思われます。
しかしシロフクロウの生息数に対して、これらよりはるかに大きな影響を持っていると思われ るのが餌となる小動物の数だといわれていま す。特にレミングの数 が減少すると、ひなを育てることができず、飢えによって多くのひなが死亡してしまいます。従って、シロフクロウの生息数はレミングやノウサ ギの数の変化に 同調して、大幅に変化し、カナダのバンクス島という島で行われた調査によると、レミングが極端に多い年には、少ない年の10倍にもなるシロフクロウが 見ら れるそうです。
また得られる獲物の量は彼らの渡りのパターンにも影響します。実はシロフクロウ達は3〜5年置きに、普段よりずっと南の地域まで移動するこ とが知られ ています。この周期は不規則で予測することが難しいのですが、どうやらレミングの数が少ない年に起きているよ うで、餌の少なくなった北極圏から食べ物を求 めてはるばる移動した結果だと考えられています。特にこの時、若いオスのシロフクロウがより南の方まで移動します。
このような時にはアメリカではテキサス州など、メキシコ湾岸周辺の州でも目撃例があり、我が日本でも鳥取県や広島県まで飛来した例が記録されています。ま た南の地域で彼らは沼地や海岸近くの他、人の作った農地や都会のビルの屋上にまでねぐらを作ることがあります。
かつて大昔にはシロフクロウの仲間が中 央ヨーロッパにも生息していたことが化石からわかっており、もともと彼らは現在よりずっと南の地域で 生まれたのだと 考えられています。しかし残念ながら今では、これら南に棲んでいたシロフクロウの仲間は全て絶滅してしまっています。
執筆:2007年12月31日(最 新改訂2008年10月1日)
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